未知の問題に強くなる「予測の型」:『超予測力』を経営の試算に接続する
未知の問題に対する対処を考えている中で超予測力という本を思い出し、読み返してみたら気づきがあった。未知に対して無力感が立ち上がるのは、情報が足りないからというより、扱うための構造が頭の中にないから。つまり、未知の問題に強くなるには、まず「予測の構造」を外付けする必要がある。
専門家でも予測は当たらない
『超予測力』で繰り返し語られるのは、専門家の予測ですら驚くほど当たらない、という話だ。下手をすると、チンパンジーがダーツを投げて当てたような雑な予測と同等か、それ以下になることすらある。
ここで重要なのは、専門家批判をしたいわけではない点だ。むしろ逆で、
当てるのが難しいのが普通
だから、当てにいくための手順が必要
という前提が、経営の意思決定を行う上でかなり刺さる。
そして本の中では、手順を意識して実行すると、予測精度が上がる(たとえば10%でも上がる)というニュアンスが出てくる。10%は小さく見えるが、経営判断の連続においては誤差ではなく差になる。判断ミスの確率が減るからだ。
大きい問いは、分解しない限り思考停止を生む
未知の問題に向き合うとき、最初にやりがちなのは「大きな問い」にそのまま挑んでしまうということだ。
この事業は成功するか
この施策は当たるか
この市場は伸びるか
この形のままだと、脳は答えを出せない。出せたとしても、雰囲気になる。
だから、まずこれを分解する必要がある。大きな問いを、小さな問いの集合に落とす。すると、対処可能な領域が見えてくる。
たとえば売上を予測するなら、最低限こう分解できる。
問い合わせは何件来るか
そのうち何%が商談になるか
そのうち何%が受注するか
平均単価はいくらか
継続やアップセルでどれくらい積み上がるか
分解できた瞬間に、未知は「ただ怖いもの」から「数字で触れるもの」に変わる。
直感(速い思考)に寄りすぎると、試算が願望になる
予測で厄介なのは、人間が楽な方に流れる点だ。直感的で速い思考は気持ちいい。論理的で遅い思考は疲れる。だから放っておくと、予測は直感に乗っ取られる。
ここで起きるのが、経営でよく見る「試算の形をした願望」だ。
これくらい売りたい
だからこれくらいの商品が必要
だから問い合わせはこれくらい必要
これは目標設定としては意味がある。でも予測としては危ない。狙いたい数字から逆算した瞬間に、現実の確率を置き去りにするからだ。
自分に刺さったのはここだった。試算をしているつもりで、実際は「狙い」を正当化する数字を作っていた可能性がある。
客観の起点を置くと、予測が現実に接続される
直感に引っ張られないために必要なのは、まず客観の起点を置くことだ。
業界の平均的な成功率はどれくらいか
この単価帯の商材の一般的な受注率はどれくらいか
広告から問い合わせまでの相場感はどれくらいか
その上で、自分の状況がどこで上振れ・下振れしそうかを調整する。順番が逆になると「自分たちは特別だ」という物語が先に立って、検証ができなくなる。
予測は一回決めるものではなく、更新し続けるもの
遠い未来ほど予測は難しい。近い未来ほど精度が上がる。これは当たり前だけど、経営の現場では忘れやすい。
だから予測を固定せず、更新前提で運用することが必要になる。
新しい情報が入ったら確率を更新する
数値が外れたら、モデル(分解の仕方)を修正する
更新の回数を増やして、未来を近づける
未知を消すことはできないが、更新頻度を上げることで「手触りのある近さ」に寄せることはできる。
仮説を信じすぎると、情報収集が偏って予測が壊れる
もう一つ問題になりやすいポイントは、自分の立てた仮説を信じすぎる問題だ。
人は普通に情報収集すると、仮説を補強する材料を集めがちになる。これは予測精度を上げる行為ではなく、確信を強める行為になりやすい。
だから意識的にやるべきは逆で、
仮説を覆す情報を先に取りに行く
反例を探す
うまくいかないケースを前提に設計する
これができると、予測は一気に堅くなる。
経営に当てはめてみると、試算の見え方が変わる
ここまで整理してくると、経営の試算って、単なる数字合わせというより「何が起きて、次に何が起きるか」を並べていく作業なんだな、と思うようになった。
たとえば広告費を上げる、という判断ひとつ取っても、気になるのは金額そのものより、その先で何が起きるかだ。
広告費を増やしたら、問い合わせはどれくらい増えそうか
その問い合わせの質は今と同じだろうか(商談化率は下がらないか)
商談から受注までの流れは維持できそうか
結果として、粗利はちゃんと残るか
もし想定より外れたら、どこで一番しんどくなるか
借入を増やす判断も似ていて、「たぶん売上は伸びる」という感覚よりも、「この数字がこの範囲で動いてくれれば返せる」というラインを先に見ておいたほうが、判断しやすい。
試算をこうやって並べてみると、数字が少し現実の動きに近づいてくる感じがする。
定期レビューは反省会ではなく、予測モデルの校正
最後に、定期的なレビューの位置づけも変わる。
これまでは「どれくらい問い合わせがあって、売上がどうだったか」を眺めて終わりがちだった。つまり数字の感想になりやすい。
でも、予測を分解しているならレビューは校正になる。見るべきは、分解したパーツのズレだ。
問い合わせ数は想定と比べてどうか
商談化率はどこで落ちているか
受注率のボトルネックは何か
単価は想定どおりか
継続やアップセルの前提は崩れていないか
ズレが分かれば、次の打ち手(広告、営業プロセス、商品設計、採用、借入)の判断が具体化する。
未知への対処は、気合ではなく構造
結局のところ、未知の問題に対して必要なのは勇気ではなく構造だった。
問題を分解する
客観の起点から確率を置く
直感ではなく遅い思考で組み立てる
予測は更新前提で運用する
仮説を壊す情報を取りに行く
レビューでモデルを校正する
この一連が回り始めた瞬間に、未知は「運任せの恐怖」から「検証可能なタスク」に変わる。
自分の試算と予測は、まだ目標と混ざっている部分がある。そこを切り分けて、予測を土台に試算を組む。たぶん今の自分に必要なのは、その徹底だ。