ChatGPTに任せてよかったことと、任せすぎて失敗したこと
ChatGPTを実生活で使うようになってから、明らかに判断が楽になった場面と、逆にややこしくしてしまった場面の両方を経験した。便利かどうかで言えば、間違いなく便利だ。ただ、その便利さをどう扱うかで結果が大きく変わる。
ここでは、歯列矯正と注文住宅という二つの出来事を振り返りながら、ChatGPTをどこまで信用し、どこから距離を取るべきだったのかを整理してみる。
歯列矯正の話
昔から歯並びが良くなくて、矯正したい気持ちはずっとあった。10年以上前、歯医者で「ついでにチェックしてみますか」と言われて軽い気持ちで診てもらったところ、「顎を切る手術が必要で、費用は300万円くらい」と言われた。
その時点で、自分の中では話が終わった。金額的にも現実的ではないし、そもそもそこまで大がかりなことをする覚悟もなかった。
それから長い間、歯医者にはほとんど行かなくなった。再び行くことになった理由は単純で、歯の裏側についたコーヒーの着色がどうにも気持ち悪くなったからだ。
クリーニングのついでに撮ってもらった歯の写真を見ながら、「これって、本当に300万円コースしかないんだろうか」と思った。そのとき、最初に相談した相手は歯科医ではなくChatGPTだった。
ChatGPTにやったのは診断の依頼ではない。最初に知りたかったのは、そもそもこの歯並びで「少しきれいにする」くらいのことが現実的なのかどうか、その感触だった。外科手術が前提になるのか、それとももっと軽い選択肢があり得るのか。その程度の相談で、保険がどうこうといった話はこの時点ではまったく想定していなかった。
やり取りの中で出てきたのが、「顎変形症に該当する場合は保険適用になる」という情報だった。過去に聞いた300万円という話には、そもそもこの前提が含まれていなかった。
そこからインターネットで調べ、改めて歯科で検査を受けた結果、実際に保険適用の範囲で矯正ができると分かった。自己負担は数十万円で済み、高額療養費制度も使えた。
振り返ると、ChatGPTが答えを出したわけではない。ただ、「他に確認すべき前提があるのではないか」という視点をくれた。それだけで、10年以上止まっていた判断が動いた。
注文住宅の話
一方で、注文住宅では同じやり方がうまくいかなかった。
暖かい家に住みたくて、断熱や気密についてかなり調べた。ChatGPTやネットの情報を読み込み、それなりに知識を持った状態でハウスメーカーと話をしていた。
サッシの話では、「オール樹脂は紫外線で劣化する」と説明されたが、調べると何十年も問題なく使われている事例はいくらでも見つかる。見積もりについても、「形式としては一般的だが、判断材料としては足りない」という整理をChatGPTにさせ、そのまま依頼文に落とした。
鉄骨住宅の気密性能についても、営業の説明と公式資料の数字が噛み合わず、実績件数を聞いたが、はっきりした答えは返ってこなかった。第三者チェックを入れたいと伝えたときも、「見ても何も出ない」という説明に違和感が残った。
結果として、こちらが確認を重ねるほど、話は前に進まなくなった。その後、ハウスメーカー側から「今後は取引できません」という連絡が入り、取引自体が終了した。不動産会社との土地の話でも、同じように条件確認をした結果、調整ではなく白紙撤回という形で終わった。
後から考えると、確認していた内容自体が極端におかしかったわけではない。ただ、正しさを詰めることに意識が寄りすぎて、相手と気持ちよくやり取りするためのプロセスをかなり省いていた。ChatGPTで整理した論点を、そのまま相手に投げてしまい、その意図や前提を丁寧に共有する手間を怠ったことで、必要以上の警戒や誤解を生んでいたように思う。
ChatGPTとの距離感について
この二つの経験から分かったのは、ChatGPTは答えをくれる存在ではなく、頭の中を整理するための道具だということだ。
歯列矯正では、自分の中で止まっていた前提を疑うきっかけとして機能した。一方、注文住宅では、整理した論点をそのまま交渉に持ち込んだことで、相手との関係を崩した。
専門家も、AIも、最終的な判断を代わりに引き受けてくれるわけではない。判断をどう進めるかを設計する責任は、常に自分に残る。
ChatGPTは距離が近すぎても、遠すぎても使いにくい。考えるために使うのか、決めるために使うのか。その線をどこに引くかで、結果はかなり変わる。
今は、少なくとも一つだけはっきりしている。ChatGPTは、信じる対象ではなく、思考を広げるための相棒くらいがちょうどいい。